猫伝染性腹膜炎(FIP)には、お腹や胸に水がたまる「滲出型(ウェット)」がよく知られていますが、ほかにも眼をおかす「眼型」と、脳や脊髄をおかす「神経型」という病型があります。
この2つは、いずれも発見が遅れやすく、治療が難しいとされる病型です。この記事では、それぞれの特徴・症状・治療の考え方の違いを整理します。
眼型FIP(Ocular FIP)とは
眼型FIPは比較的まれですが重篤な病型で、主に眼をおかします。猫コロナウイルスが変異し、眼の組織――とくに虹彩・網膜・視神経に炎症を引き起こすことで発症します。
単独で起こることもあれば、ドライFIP(非滲出型)と併発することもあり、早期発見が難しいのが特徴です。
一般的な眼の感染症と見分けがつきにくく、見逃されやすい病型です。少しでも疑わしい症状があれば、獣医師にFIP検査を相談することが重要です。
眼型FIPの主な症状
視覚に直接影響するため、症状は眼やその周囲に現れます。
- 眼の充血・炎症 ― ぶどう膜炎(uveitis)による赤みや炎症
- 眼の濁り・かすみ ― 片眼または両眼が白く濁る
- 瞳孔の異常 ― 左右で大きさが違う、反応がおかしい
- 急な視力低下 ― 突然の視覚喪失や見当識障害
- 治らない眼やに ― 通常の治療で改善しない眼の分泌物
- 光への過敏 ― まぶしさに敏感になる(羞明)
神経型FIP(Neurological FIP)とは
神経型FIPは、最も複雑で重症化しやすい病型です。変異したウイルスが中枢神経系(CNS)に侵入し、脳と脊髄に炎症を引き起こします。
この病型は急速に悪化することがあり、早急な診断と治療開始が予後を大きく左右します。
神経型FIPの主な症状
おかされる脳・脊髄の部位によって症状は多彩です。初期は軽微でも、徐々に悪化していきます。
- 頭の傾き・旋回 ― 頭が傾く、ぐるぐる歩き回る
- 運動失調(ataxia) ― 動きがぎこちない、ふらつく
- 発作・振戦 ― けいれん発作や震え
- 筋肉のけいれん ― 筋肉のピクつき(攣縮)
- 急な行動変化 ― 性格・行動が突然変わる
- 歩行・跳躍困難 ― うまく歩けない・跳べない、バランス喪失
てんかんや外傷など他疾患と症状が重なるため、しばしば誤診されます。FIPの経験豊富な獣医師による正確な評価が不可欠です。
なぜ眼型・神経型は治療が難しいのか
眼型・神経型はいずれも、滲出型(ウェット)や早期のドライFIPより治療抵抗性が高いとされます。主な理由は次の3つです。
- 関門の壁 ― 「血液眼関門」「血液脳関門」が、標準的な抗ウイルス薬の患部到達を妨げる。
- 発見の遅れ ― 症状が現れるのが遅く、その時点ですでにウイルスが大きな損傷を与えていることが多い。
- 高用量・長期化 ― より高い用量と長い治療期間が必要となり、飼い主の身体的・経済的負担が大きい。
だからこそ、可能な限り早期に治療を開始することが何より重要です。
眼型・神経型FIPの治療調整
眼型・神経型の猫には、関門を通過させるための特別に調整した治療プランが推奨されます。
- 高用量 GS-441524 注射 ― 血液脳関門・血液眼関門を通過できる高用量の注射剤。
- モルヌピラビル系 経口薬 ― 注射が難しい猫や長期治療に適した経口(EIDD-1931)治療。
- 治療期間の延長 ― 多くの場合 84日以上と、治療期間を長めに設定。
- モニタリングと用量再計算 ― 体重・症状を追跡し、用量計算ツールで投与量を随時見直し。
治療中は必ずかかりつけの獣医師と連携し、猫の体重と症状を継続的に記録することが推奨されます。
まとめ ― あきらめないで
眼型・神経型のFIPは治療が難しい病型ですが、治療不可能ではありません。
早期発見・適切な投薬・十分なサポートがあれば、重い症状を示した猫でも完全に回復した例が数多くあります。
診断を受けても、希望はあります。正しい治療の道を、獣医師と一緒に選んでいきましょう。