FIP治療中の猫に、血栓が起きることがあります

飼い主が毎日できる、3つの観察。道具もお金もいりません。

この記事は、獣医師による診断や治療の指示ではありません。FIPの猫を支援する立場の者が、実際の経過と公表されている文献をもとにまとめたものです。血栓予防を行うかどうか、薬を使うかどうかは、必ず主治医と相談して決めてください。

なぜ、この3つなのか

FIPの治療中に、血管の中で血のかたまり(血栓)ができることがあります。血栓は起きてから数時間が勝負で、その最初のサインに気づけるのは、獣医師ではなく、毎日その子を見ている人です。

見るのは3つだけです。鳴き声、体温、そして時間。道具もお金もいりません。

FIPは、もともと全身の血管に炎症が起きる病気です(Kipar 2014、Malbon 2019)。そこに別の条件が重なると、血栓ができやすい状態が積み上がっていきます。

  • FIPそのもの
    全身の静脈に炎症が起き、血管の内側が傷ついた状態が続く
  • 免疫介在性の溶血
    赤血球が壊れる状態が重なると、血が固まりやすい方向にはたらく
  • ステロイドの使用
    溶血の治療には必要だが、凝固が進みやすい条件をさらに足す
血管の中で血栓ができるまでの3段階。正常な血管、FIPによる血管炎で内側が傷ついた血管、傷ついた場所に血栓ができて血流が止まった血管を、上から順に並べた模式図。

図1:FIPは全身の血管に炎症が起きる病気です。傷ついた血管の内側に血栓ができると、その先へ血液が届かなくなります。後ろ足が冷たい、肉球の色が白い・紫といったサインは、この「届かなくなった先」で起きていることです。

これは学会で確定した話ではありません。猫の免疫介在性溶血性貧血が血栓のリスク因子として扱われることは国際的な指針にも記載がありますが(CURATIVE 2022)、FIPそのものを独立したリスク因子として血栓予防を行うべきかどうかは、まだ獣医学の中で議論されている途中です。

ただ、血栓は一度起きると数時間で命に関わります。そして最初のサインに気づけるのは、その子の「いつも」を知っている人だけです。

観察にお金はかかりません。気づいて何もなければ、それでいい。この3つを、毎日の習慣にしてください。

1鳴き声

普段鳴かない子が、突然、長く鳴き続けたら——すぐに病院へ。

血栓が血管に詰まったときの痛みは、猫の病気の中で最も強い部類です。猫は痛みを隠す動物ですが、この痛みは隠せません。

特に注意してほしいのは、食事中や食後です。食べると腸に血液が必要になるため、血流が足りていないと、食べたときに痛みが出ます。

「いつもと違う鳴き方をしている」と感じたら、それはあなたにしか分からない情報です。

様子を見ないでください。電話をしてください。

2体温

毎日、決まった時間に直腸体温を測ってください。

FIPの治療がうまくいくと、熱は数日で下がります。いったん下がった体温が、また上がってきたら——何かが起きているサインです。

病気の再燃、感染、そして血栓による組織の障害。どれも発熱を起こします。どれであっても、放置してよいものはありません。

目安として、平熱は38.0〜39.2℃くらいです。39.5℃を超える日が続く、あるいは逆に37.5℃を下回るときは、主治医に連絡してください。数値の基準は、主治医の指示を優先してください。

体温を測れない場合は、行動を見てください。猫は熱があると、冷たい床やタイルの上に長く伏せます。普段そうしない子がそうし始めたら、熱が出ている可能性があります。

3時間

血栓は、起きてから数時間が勝負です。

抗血栓薬は「できた血栓を溶かす薬」ではありません。「これ以上大きくならないようにする薬」です。だから、効くのは早い段階だけです。

血栓が大きくなって心臓に負担がかかり始めると、薬だけでは止められなくなります。そこからは酸素と強心薬が必要になり、助かる確率は下がります。

「朝まで様子を見よう」は、この病気では通用しません。夜中でも、休日でも、気づいた時点で動いてください。

あわせて覚えておいてほしいサイン

  • 後ろ足を引きずる、後ろ足が冷たい、肉球の色が白い・紫
  • 突然倒れる、ぐったりして動かない
  • 口を開けて呼吸する、呼吸が速い
  • 両目に白い膜(瞬膜)が出ている
  • 急に食べなくなる

このうち一つでもあれば、すぐに病院へ。

今日のうちに、主治医と話しておくこと

血栓は、病院が閉まっている時間に起きることがあります。そのとき慌てないために、元気なうちに確認しておいてください。

  1. 夜間や休日に急変したとき、どこに連絡すればよいか
  2. 近くに夜間診療がない場合、万一のときの薬を事前に処方してもらえるか
  3. 「こういうサインが出たら連絡する」という約束を、主治医と共有しておく

2番は、地域によっては難しいかもしれません。それでも、聞いてみる価値はあります。

ただし、2番は主治医が判断することです。

抗血栓薬は出血を起こす危険もある薬で、その子の状態によっては使えません。手元にあっても、獣医師の指示なしに飲ませないでください。この項目は「相談しておく」ためのもので、自己判断で使うためのものではありません。

実際にあったこと

ある離島で、FIPの治療を受けていた保護猫がいました。治療は順調で、腹水も消え、食欲も戻っていました。途中で溶血が起き、ステロイドを1ヶ月ほど使いました。

治療開始から41日目の朝、食事中に、普段まったく鳴かないその子が長く鳴き続け、そのあと倒れました。世話をしていた人は「いつもと違う」と感じましたが、それが何を意味するのかは、誰にも分かりませんでした。

夕方、両目に瞬膜が出ているのに気づき、東京の専門医に連絡しました。40分後には見立てが届きました。血栓の疑い、すぐに抗血栓薬を、と。

でも、その島に、その夜、薬を出せる病院はありませんでした。

翌々日の朝、その子は亡くなりました。

気づくのが遅かったのではありません。気づいた時刻に、薬を手に入れる手段がなかったのです。だからこそ、元気なうちに主治医と話しておいてください。

この子のことを世話していた人が「鳴いていた」ことを覚えていてくれたおかげで、この記録が残りました。次の猫のために、書いています。

この文書の目的は一つだけです。気づけるはずのサインを、見逃さないこと。

参考文献

  1. Kipar A, Meli ML. Feline infectious peritonitis: still an enigma? Vet Pathol. 2014;51(2). doi:10.1177/0300985814522077
  2. Malbon AJ, Fonfara S, Meli ML, et al. Feline infectious peritonitis as a systemic inflammatory disease: contribution of liver and heart to the pathogenesis. Viruses. 2019;11(12):1144. doi:10.3390/v11121144
  3. deLaforcade A, Bacek L, Blais MC, et al. 2022 update of the Consensus on the Rational Use of Antithrombotics and Thrombolytics in Veterinary Critical Care (CURATIVE) Domain 1 — Defining populations at risk. J Vet Emerg Crit Care. 2022. doi:10.1111/vec.13204
  4. Tasker S, et al. Guideline for feline infectious peritonitis. European Advisory Board on Cat Diseases (ABCD). 2024年12月更新版. abcdcatsvets.org
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個々の猫の診断・治療方針を示すものではありません。血栓予防を行うかどうか、薬を使うかどうかは、必ず主治医と相談して決めてください。いかなる薬も、自己判断で開始・変更・中止しないでください。また本記事は、現在受けているFIP治療をためらったり中断したりすることを勧めるものではありません。